ある夏の夜、バーに男がひとり入って来た。男は「マッカランの18年をトワイスアップで2杯くれ」と注文した。バーマンは少し不思議に思いながら男の前に2つのグラスを置いた。男はしばし目を閉じた後、目の前の2つのグラスに交互に口をつけ、マッカランを飲みほした。そして「同じものをもう2杯」と言った。今度も同じように両方のグラスに交互に口をつけ、すっかり飲み干すと「同じものをもう2杯」とバーマンに告げた。
好奇心が押さえきれなくなったバーマンは男に訊ねた。「お客さま。立ち入ったことを訊くようですが、どうして2杯ずつご注文されるんですか」
「よくぞ訊いてくれた」と言って男は説明を始めた。「俺にはガキの時分からの大親友がいてね。奴も俺もシングルモルトが大好きだったから、三日にあげずバーに通い、酒を酌み交わしてきたんだ。ところが、奴は1カ月前に交通事故で死んでしまった。奴には何の過失もなかった。神様は随分と残酷なことをなさるじゃないか…。奴は飲むと必ずこう言っていた。『俺が先に死んだら、お前がバーに行ったときには俺の分も注文して俺の代りに飲んでくれ』ってね。俺は『もちろんだ』と答えた。『逆に俺が先に死んだ場合はお前も同じことをしてくれよ』と言って二人で笑い合ったもんだ…。
そういうわけで、同じ酒を2杯ずつ頼んでいたんだ。疑問を抱かせて悪かったね。奴がいなくなっちまうと、二人で通ったバーには行くのはどうも辛くてね。どこか良いところはないかと歩き回って、この店を見つけたというわけだ。こんな飲み方で迷惑でなければ、通わせてもらいたいと思っているんだがね」
「迷惑だなんてとんでもないことです。お客さまのお話を聞いて感動いたしました。どうぞ、これからご贔屓に。次の2杯は、私からお客さまとそのお友だちにプレゼントさせてください。マッカランの25年です」
「ありがとう。奴も天国で悦んでいると思うよ。そうだ、献杯をしよう。奴のグラスは君が持ってくれ。では、献杯!」。男は合計8杯の酒を飲み干して帰って行った。客はその後も週に2、3度はこのバーに足を運び、同じように2杯ずつ、合計8杯の酒を飲んでいた。ところが、ある日を境にぱったり姿を現さなくなった。「何かあったのだろうか」とバーマンは気がかりだった。
秋風が吹き始めた頃、あの男がバーに戻って来た。そしてバーマンに告げた。「いつものようにマッカランの18年を…」
「2杯ですね」
「いや1杯だ」
「えっ? どうしてですか」
「情けない話だが肝臓を悪くしてしまってね。俺はドクターストップがかかったんだ。だから、しばらくの間、俺は飲めないんだよ」
【69】酒を持って仲たがいした友の墓を訪ねなさい | BPnetビズカレッジ:休憩室 | nikkei BPnet 〈日経BPネット〉 (via motomocomo)

